「としまえん」は1927年の開業以来、様々な紆余曲折を経て、ようやく今日の西武鉄道グループの運営に落ち着いたところでした。
都は首都圏の防災機能を高め、永続的な避難場所として管理できるとの説明でしたが、3.11の震災の影響もあると思われますが、いささか突飛な感じは否めません。
「としまえん」の敷地は、昭和32年に「練馬城址公園」として都市計画決定され、運営は都市公園法の制約を少なからず受ける事になります。更に隣地は閑静な住宅地でもあり、大きな幹線道路に面していないなど、遊園地として打つ手も限られ身動きの取れない状況がずっと続いていました。
そんな中、博報堂さん制作のCM「史上最低の遊園地」で再び世間の注目を集める事となり、「プール冷えてます」も大ヒットしました。
プール事業を収益の柱として運営を継続して、全国のテーマパークの大半が姿を消し遊園地業界も撤退・廃業を余儀なくされる中で、23区内の至近な遊園地として都民に親しまれてきました。
都建設局は「交渉次第だが、遊園地が存在したままの公園化は困難」としています。
一方、西武グループは「都から詳細な内容は何も聞いておらず、現状でとしまえんを売却する予定はない。今までと変わらず営業を続ける」と見解の相違をみています。
私は30年以上前から「としまえん」の仕事をお手伝いして来ましたし、現在の押上スカイツリーの建設が決まる前の、第二電波塔の候補地を決めるコンペの際にも、練馬区の有志の皆さんから立候補の相談を頂き、一緒にプランを練った時期もありました。
「としまえん」の敷地内に松本零士さんのイメージする壮大なスーパータワーを建てようというものでした。
また、「ロッテワールド東京」プロジェクトの計画者としても集客の研究と、あるアトラクションを目当てに「としまえん」には、随分足を運んだ思い出があります。
さて、あるアトラクションとは「エルドラド」の事で今回の本題です。
「としまえん」の回転木馬、カルーセル「エルドラド」は、機械仕掛けの芸術的乗り物として100年以上の歴史を持つ世界最古の貴重な文化遺産であり、2010年に日本機械学会より「機械遺産」に認定されたのをご存知でしょうか。
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| 「エルドラド」の全景。「としまえん」の資料からお借りしました。 |
この「エルドラド」は1907年にドイツのヒューゴ・ハッセ(1857~1933)によって製作され、同年のミュンヘンで開催された"オクトーバー・フェスト"において初めて披露されます。
この豪華なカルーセルは当時の人気者となり、ヨーロッパ各地を巡業して大歓迎されて彼は蒸気機関の整備士でしたが、やがて遊戯施設の製作者として名を知られるようになりました。
しかし、当時のヨーロッパは戦争へと向かう不穏な時代でもあり、アメリカのルーズベルト大統領の訪独がきっかけとなって、ヒューゴ兄弟はニューヨークのコニーアイランドの遊園地に移設することを思い立ちます。
こうして1911年に「エルドラド」は戦火をのがれ、永住の地を得たのです。
しかし、ニューヨークっ子に親しまれた「エルドラド」は1964年のコニーアイランドの閉鎖により解体され倉庫に眠ったままとなってしまいます。
その噂を聞きつけたのが「としまえん」でした。
そして交渉の末、ようやく1969年に太平洋を渡り、1971年に当時の姿に完全修復され見事な復活を遂げて、日本人の私たちに夢を与える事になるのです。
「エルドラド」とはスペイン語の"黄金郷"の意味ですが、まさにその姿はアールヌーボー様式の精巧な芸術的彫刻作品として今でも高い評価を集めています。
24体の木馬と豚やゴンドラ、馬車はすべて木製の手づくり(顔や表情がすべて異なる)でどれも工芸品の域となっており、繊細な装飾によって象られたその全体像は絢爛豪華そのものです。
世界中のカルーセルと比較しても、この「エルドラド」に匹敵するものは一つとしてないと思います。
今でもカルーセルメーカーはイタリアに1~2社ありますが、この「エルドラド」級の芸術作品をつくれる職人はもうほとんど残っていないのではないでしょうか。
さて、みなさんはこの「エルドラド」の芸術的・美的価値にようやくお気づきと思われますが、このカルーセルの本当の芸術的価値とは実は外見だけではありません。
「エルドラド」の凄いところは乗ってみて初めて分かるのです。
凄さの仕掛けは簡単です。
ミソは木馬やゴンドラ、馬車などの乗っている円盤(ターンテーブル)にあります。
普通のカルーセルは円盤が一枚で木馬などが一緒に回転して、木馬が機械仕掛けで上下運動をするのが一般的です。(二階建てもありますが、基本はそれぞれのフロアーの円盤は一枚です)
ディズニーランド、ディズニーシーのものが代表的なスタイルです。
しかし、「としまえん」の「エルドラド」が偉いのは、そのターンテーブルが内側・真ん中・外側の三つに分かれていて、それぞれは同じ方向に回転するものの、回転速度が異なるところが秀逸なのです。
どういうことになるのか?
全体は時計回りで回転しているにも拘わらず、自分の位置や目のやり方次第で、反対に反時計回りで回転しているかのような錯覚に陥るのです。
もっと分かりやすく言うと、時間が逆回転するタイムトリップの中に入り込んでいくのです。
外の景気は確かに後ろに飛んでいくのですが、内側に目をやると自分が後ろに下がっているではありませんか。実と虚が交錯しながら時間の渦の中に引きずり込まれてしまいます。
非常に哲学的でもあり、この遊戯施設が子供だけのものではないことがすぐに理解できます。
しかし、この貴重な経験も乗り物として完全に駆動してこそ、その本来の価値が発揮されるのですから、是非とも「機械遺産」として今後も適切にメンテナンスして頂き、いつまでも動く状態に保たれる事を望んで止みません。
私はいつも実と虚の交錯する瞬間、フェリーニの映画を思い出します。
フェリーニはもともと天体物理学者で、後に映像の魔術師と言われるようになりますが、この「エルドラド」の時間体験は遊戯施設の魔術師と言えないでしょうか。
フェリーニのイメージする時空間と、この「エルドラド」がもたらす想像力の世界とがいつも重なっています。
「エルドラド」は素晴らしい映画作品にも匹敵する芸術のレベルにあると思えてなりません。
それは、視覚だけではありません。
Beatlesの「A Day in the Life」の終章の音の渦にも似ているし、なぜか劇中劇として有名なレオンカヴァッロ作曲のヴェリズモ・オペラ「道化師」の音楽が頭の中で聴こえてきます。
私は今まで大勢の人を「としまえんに」ご案内し、「エルドラド」を体験するようお勧めして来ました。
皆さんのリアクションがまた楽しいのです。
さあ、ファンタジーの原点ともなるアトラクションに乗ってみましょう。
まだ、「エルドラド」未経験者の方は、是非「実と虚」の深遠な世界を体験してみてください。
